afurikamaimaiのブログ

テキスト打ちのリハビリのはずだったが、今は路頭に迷ってる

城山三郎

通勤途中でちょこちょこ読んでたのを読み終わる。

中短編なので区切りがつきやすいのがいい。

文章も読みやすくてとてもよろしい。 

 

 

いちばん印象に残ったのはやはり、「一歩の距離 小説予科練」でしょうか。

最後に収録されてる中篇なんですが、上尾・塩月・小手川・英 4人の少年を軸に展開される戦争末期の海軍の様子が何ともやりきれない。

戦争で運命を翻弄されるってのはまあ話としてはよくあることなんでしょうけど、それにしたってこの少年たちの扱いの軽さといったら・・・やりきれないですね。

飛行機に乗りたい人志願してください! → 残念、飛行機はありません!!

というのが全員平等に与えられた条件ならまあしょうがない、って思うけど、ここでまず道が分岐します。

飛行気乗りになりたいと思い、じっさいに飛行機のある部隊に配属された上尾。

一方で他の3人は滑走路はあるけど飛行機のない部隊に配属されます。

この時点で上尾と他の3人の飛行機への適性の差なんてまったくないんですよ。

運と偶然でまったくルートが異なってしまう。

「飛行機乗りになりたい奴、集まれ!!」って募集しておいて、この有り様。

戦争中とはいえ酷い扱いだな、って思ったのが序盤ですが、

「飛行機なくても散華することには変わりがないんだ」って達観してるのが英。

英少年は他の3人と比べると戦争に対してけっこう超然としていて、一人だけ特攻で戦死してるんですが、これがまた考えさせられる。少年らしい真っ直ぐさで「海軍の汚濁」に染まる前に清いままで死んでやれ、という覚悟で生きて、そして死ぬんですがそれでも途中、塩月にかけられた言葉に引っかかって戸惑いを見せてるシーンがあるんですよね。

それに英が自分の中でどんな答えを出したのか、それが分からないまま英は物語から退場してしまうのがまた想像を掻き立てる。語り方が上手いなぁと感じました。

 

でも作中で一番、印象深いのは臆病者の小手川です。

小手川自身の境遇もそうですが、小手川を軸に描かれる海軍内部の矛盾とか非人道性とかがきつい。

海軍内部のリンチや制裁に慣れて行く塩月に対して、小手川は何時までたってもそうした体罰に怯えて過ごしています。そんな小手川が特攻志願を募ったときに見せた勇気(というか勢い)に塩月は大変な気後れを感じている。タイトルの「一歩の距離」は、この時特攻志願に一歩踏み出したものと、その場でとどまった者との差を示しています。

特攻志願後の小手川のエピソードはちょっと辛過ぎて、ここまで酷い話はフィクションでもやっちゃアカンだろ、って気持ちになります。本当に気持ちが沈む。

と同時に、海軍という組織に対して疑問と憤懣がふつふつと沸いてきますね。

フィクションではあるけど、一面で真実を伝えてるところもあるんでしょう・・・というか小手川の最後に関する処理が、「今でもありそうだな」って思わせる隠蔽処理なのがキツイです。

最悪なのがその隠蔽を戦友たち、つまり塩月や英たちに加担させている場面。大人たちが子供にそういうことをやらせるというのにクラクラします。

けっきょく敗戦まで生き残ったのは上尾と塩月の二人なんですが、この二人にしても運命に翻弄されっぱなしで哀れでなりません。

全般に救いのない話ですが、時々に挿入される上尾の飛行中に見た風景や、英の回想する故郷のシーンの描写が綺麗で、これがまた少年たちの境遇との落差が激しくて印象的。

読後、作中の大人たちと自分を照らし合わせて非常にやるせない気分にも、情けない気分にもなる小説ですが、あまりにも酷い大人すぎて、こんな大人になっちゃダメだぞ、って自らを奮い立たせてくれる面もあります。

お奨めしたい作品です。