先日のブログで「マインドフルネス」をぶったたいた。
特にウォルマートも導入してますよ、世界のエクセレントカンパニー、トップリーダーはみんな既にやってますよ、良い影響をバッチリもたらしてますよ、ってところがものすごく引っかかった。
ほかにもグーグルとかアップルとか引き合いに出されてたけど、なんでウォルマートに引っかかってたんだろうな、って過去の記憶を掘り返したら、これだ、この本だ。

「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ (シリーズ22世紀を生きる)
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全体の内容はボンヤリとしか覚えてなかったんだけど、P165~のくだり
ウォルマートがアメリカの中堅自転車メーカー・ハフィーの自転車販売に乗り出す
↓
序盤はウォルマートで売れるのでハフィーも嬉しい、WIN-WINな関係
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ある日、ウォルマートがハフィーに「90万台/年」の納入を要求。
ハフィーの従来の実績最大値は45万台/年。
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無理すぎる、けどこの要求を拒絶したら、ウォルマートとの巨大取引が消える!
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ハフィー、在米のライバル自転車メーカーに自社の自転車製造を委託。
設計図その他の技術情報(それってハフィーの競争力の源泉ですよね)の公開を余儀なくされる
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ハフィー並みの自転車をいろんなメーカーが作れるようになる
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「お前の代わりなんて・・・いくらでもイルンダヨ?」(byウォルマート)
って買い叩かれて、ついでにウォルマート自体もハフィーの自転車を徹底研究してその製造ノウハウを暴き、中国に外注。米国内のライバルメーカー、さらに中国との価格競争で買い叩かれてけっきょく衰退するハフィー
この流れが特に印象に残ってたので「ウォルマートはヤバイ」って意識があった。けどま、よく考えると巨大小売の買い叩きってどこでもやってる事ではある。
これが何故マインドフルネスの世界では
ビジネスの世界におけるマインドフルなリーダーたち(マインドフル・リーダー)は、利益をあげるために手段を選ばない人ではありません
(世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方 P.244)

世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方 ハーバード、Google、Facebookが取りくむマインドフルネス入門
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という理解になるのか?
ウォルマートのボスが名指しされてはいないけれども、マインドフルネス導入事例として挙げられているのだから、「ウォルマートはこの例外」と捉えるのは無理がある。
しかし、ウォルマートのハフィーに対する振る舞いをみると、この理解はすごく釈然としない。
ウォルマートのハフィー潰しのこのあり方が、本書の語る「コンシャス・ビジネス」
(企業が社会を最適化することによりビジネスチャンスと価値を生む、らしい)
繋がるのか? っていう疑問が湧く。
しかし、「ウォルマートのハフィー潰し」に代表される巨大小売の納入業者買い叩きというモデルは今も健在だから、これも彼らの視点から見れば「社会の最適化」につながっているということになる。
最初にあげた平川の本では
「ウォルマートで1カウンティあたり約7世帯、全米で約2万世帯が貧困化」(2007 スティーブン・コーツの調査結果による)
とのことなので、これをも是認するのがマインドフルネスの世界観ということだ。
本書内で書かれている明るい展望とはずいぶん毛色が違うな・・・?
なんかもやもやしたのでマインドフルネスしてみた。
少しだけ頭が冴えた。
これって視点を変えてみたら彼らのいう(マインドフル・リーダー)のいう世界と、吾の考えている世界の優先順位とか広がりが違うだけの話なんだろうと思う。
マインドフル・リーダーの世界では
「カウンティ? 全米? ちっさいぜ!」
「中国に自転車を発注する! 中国の貧民が仕事ゲットでニコニコ!」
「カウンティの貧民が安くお買い物できてニコニコ!! every day low price!!!」
「地域のささいな困窮なんぞナンボのもんじゃーい!」
ってなってて(おそらく)、その理路で行けばたしかにグローバル全体での貧民の底上げ≒人類社会の生活レベルの上昇には繋がってるのだ。
その背後でアメリカという先進国の中で仕事を失って困る人がちょびっと出てきても、得られる利益は大きいからこの路線は間違ってないよね。って判断になってもそれはそれで正義と言われれば「まあそうかな」と思わなくもない。
全くの想像だけど、ウォルマートが中国に発注して中国の貧民工の衣食住がちょっとレベルが上がったのなら、それは喜ばしい面もあると思うし。
ただ吾の場合はそういう巨視的な視点になれないので、「中国のどこか奥地の貧民工」よりも「仕事を失ったカウンティのアメリカン」側に立ってしまうからウォルマートえげつないな、って思うだけで。
彼ら(マインドフル・リーダー)が自己利益を追求してるのではなく、理想を追求してその過程で「甘受すべき犠牲」として切り捨ててる側の視点に立つからこそ彼らの正義にすごく違和感を感じているんだな、と自覚できた。
うん。
たしかにマインドフル・リーダーを筆頭に社会を牽引してるリーディングカンパニーって奴は自己利益の追求ばかりしてるわけじゃないんだと思う。
彼らも利他の精神は持っている。
ただ吾も、ウォルマートに席巻されたカウンティのレッドネックとかも、その「他」の範疇からは零れ落ちているのだな、と。
マインドフルネスは「自己認識と叡智を促す」(P.241)という。
トップエリートの皆さんがより研ぎ澄まされた自己認識と叡智に目覚め、「グローバルな利他」を理想として推進すればするほど「ローカルな、地域優先的な利他」との衝突は激しくなるだろう。
(矛盾を抱えながら進むのもマインドフルネス・リーダーってことなので、ウォルマートはじめグローバルなエリート達がいつか「グローバル」と「ローカル」の鬩ぎ合いのバランスをとることを期待したいけど・・・どうも無理なんじゃないかなって気がする)
そうなった時にローカルに属する吾なんかは、マインドフルネスによって今よりさらに洗練された、グローバル利他に最適化されたため、反射的にローカルにはさらに酷薄な感じになった政策や経営に晒されていく事になるんだろうな、と思うとちょっと心震える。
大の虫を生かすために小の虫を潰す、ってのは圧倒的に正義ではあるんだけどね・・・
潰される小虫側になると切ないもんがあるな。
マインドフルネスで、そういう状況でも生き抜く力を鍛えられるんだろうかね?