子供に「良い言葉」を使わせるために
科学の装いが使われている。
科学以前に、人として許せないと思いました。
「暮らしのなかのニセ科学」P.256
このように言い切れる強さのある人間になりたかった。
嘘科学・ニセ科学・エセ科学・疑似科学の弊害を分かりやすくまとめた一冊。
既知の内容もあるけど、それ以上に知らなかったことが多かったというか・・・
ゼニ稼ぎのためのスレスレの嘘っぱちは日夜休まず生産されていて、それをフォローして「これは嘘ですよ」と潰していく事が如何に大変なのか、ってのが垣間見える。
吾のアンテナに引っかかる前≒アンテナの低い人間にまで大流行して被害が拡大する前に行政が食い止めた事例もかなりある。
というか、この本読んでるとお役人さん(国民生活センターや消費者庁)って仕事してるなぁ、って見直してしまう。実際に被害に遭ってしまった人たちからすればまったく後手後手なんだろうけど、それでも広まる前に手を打とうとしていることは見えてくる。
なんとか還元水とか、一時期政治家までも入れあげて普及させようとしたブツなんかも行政はブレーキかけてるし。現在進行形でググッと超党派で推進されてるEM菌なんかもあるけれども、実務に当たってる前線はそういう胡散臭いものを排除するのに手抜きしてないんだな、と。
プラズマクラスター(シャープ)やナノイー(パナソニック)、ビオン(キングジム)といったメジャーどころの企業の作った胡散臭い商品なら、消費者の視点持ってないとなかなかダメ出しできないですよね。
こういう時に「たしかにこれは胡散臭い(謳ってるほどの効果はないよ)」ってちゃんと処分を下せるお役所のことは、もう少し信用して褒めてもいいんじゃないかって思いました。吾はけっこう普段お役所叩きがちだし、こういういい仕事はちゃんと褒めないとバランスが悪い過ぎるし。
それにしても、ホントにエセ科学って深く深く生活に染み込んでるんだな、って改めて慄然とした。
なかでもサプリの隆盛はすごいんだけど、そもそもこういう
「胡散臭い表示」「ふわっとした表現で有利誤認スレスレな客引き」
っていつ始まったのよ、ってなると
クリントン政権時に「栄養補助食品・健康・教育法」(1994)
それがググッと盛り上がって日本に外圧+国内の健康志向で
厚生省(当時)がOTO(市場開放問題苦情処理対策本部)の決定にもとづき
ビタミン(1997)
168種のハーブ類(1998)
ミネラル(1999)
がサプリとして流通OKになった
「暮らしのなかのニセ科学」 P.74~75より抜粋
この結果日本にドバッと溢れた「健康食品・サプリ」と称する商品群はアメリカと違って効果・効能を表示できない代わり、
・有効性と安全性の科学的無根拠なまま販売してもOK!
・医薬品に求められる品質の均一性・再現性・客観性・純度も無視してOK!
という巨大なメリットがある。
著者が言ってるわけじゃないけど、まさにここが
ふわっとした「※個人の感想です」広告や、
なんとなく体によさそうに誤解させる「科学っぽさ」を装った広告(ニセ科学)
の根源ではないかと思いました。
いったん相手に下駄を預けて(判断を委ねて)売りつけてしまえば、後は無問題。
誤解したのはあんたですよ、って言い逃れのできるテクニックがどんどん洗練されていった歴史が、この20年の流れではないんかな、と。
たったの20年で2兆円規模に急拡大した健康食品・サプリ市場なら、誰だって食いつきますよね。
効果・効能は謳えないけども、
「科学的根拠は必要としない」
「医薬に要求されるような製造ラインの厳格さも求められない」
こんなハードルの低いぼろ儲けに乗らない奴はアホである、レベル。
消費者が「これって医薬のような効果・効能があるんだ」って誤解するような宣伝をやっても、曖昧な文言なら逃げ切れるし、それが確実に誤解を招いたかどうかを検証するのはどうしても後追いだから売り逃げも出来る・・・
となれば、
少し気の効いた業者なら「※個人の感想です」の広告に流れ、
冒険的な山師的な業者なら「効果あるぞ!(なお無根拠の模様)」って摘発されるまでに売り抜けるチキンレースに打って出るのも道理。
ここまであからさまに「害のある嘘」ならどうにかして対抗しないといけないと思うけど、人間のアタマはどうしても騙されるようにできているし、しかも胡散臭いサプリや健康食品は後を絶つことなくどんどん送り出されている状況。
けっきょく個人で気をつけるより他なくて、そのためのリテラシーを鍛えるための参考文献とかもいっぱい紹介されてるんだけど、それを網羅するのも難しい。
それよりはむしろ、本書の冒頭に出てきた有効性根拠の信頼度レベル
についてしっかり頭に叩き込んでおいたほうが入り口で避ける方法になるのかな、と思いました。
・メタアナリシス
・二重盲検法(ランダム化比較実験)
・オープンスタディ
・コホート研究
・ケースシリーズ
・症例報告
・マウスなどを使った動物研究
・培養細胞などを使った試験管での研究
・体験談
「暮らしのなかのニセ科学」P.35表より
それぞれの実験・試験のやり方の説明は本書に書いてありますが、どうも「コホート研究」以下の例示であれば、じっさいの有効性は疑わしいと思って排除していいような雰囲気。
気の効いたサプリでもケースシリーズまで行ってれば御の字・・・みたいなので、自分の中のサプリの判断基準としては、手っ取り早くて覚えやすいし、これが一番使えそうだな、という印象です。
さて。
ここまでダラダラ「害のある」書いてきたけど、冒頭の言葉に戻ります。
「水からの伝言」を初めとするニセ科学の教育現場への浸透についても本書では言及されているのですが、
誰かを説得するために変心を促すために
何らかの権威を自分に引き寄せて使う
という語り方、割と使ってきた自覚がある。
振る舞いとしてあんまり良いものではないというのは感じてるんだけども、その便利さに負けて、意識してそういう物言いを避けている今でも、ついつい使ってしまいがち。
冒頭の言葉のかっこよさに痺れたのは、吾にはこう言い切る自信がないからです。
「人として許せない」
嘘をつきそうなとき、嘘を使って誰かに影響力を及ぼそうとするとき、この言葉を常に思い出したい。そう思いました。
自分はウソツキだな
世の中ってウソだらけだな
なんで自分はこんなに騙されやすいんだろ?
そんな凹んだ夜に、おススメの一冊でした。