正しいかどうかはしらんが、こういうおっきい話好き。
過剰な資本の末路と、大転換の未来: なぜ歴史は「矛盾」を重ねるのか
- 作者: 水野和夫
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2016/06/21
- メディア: 単行本
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「収益逓減の法則」で、モノたくさん売り続けると利鞘が減るけど
いっぽうで
「限界費用逓増の法則」で、モノ作るのに必要な資源調達コストは上昇する。
やがて売上とコストが均衡しちゃう事になるのが通常だよ、という原則がある。
で、これから考えると、
生産のぶっとい柱であるエネルギー調達に際して、オイルショックまではまったく
「限界費用逓増の法則」が働かなかった。
誤差の範囲での原油価格変動はあったけれども、生産力がグングン上がって
原油の需要もガンガン増えてるのに、なぜか(なぜかでもないが)原油は安いまま推移したので、生産が増えるにつれてコストが上昇して利益が減る~~、というサイクルには乗らず、順調に成長を続けてきたのが近代なんやで、という話。
この近代の前提となる
「エネルギーコストは安いままずっと不変だぞ」
ってのはむしろ例外で、この例外状況において達成されてきた「ぐいぐい成長する経済」というのは異常事態である、今後はこういう成長は望めないが、どうなるのか?
についての展望もちょっと展開されてて、なかなか面白かったです。
実際の理論としての妥当性はとりあえず措くとして、
(当方、正誤の判断が出来るほどの経済の知見を持ち合わせておりません)
世界の歴史の捉え方として面白いなぁ、と。
収益とコストの均衡で「もうこれ以上成長は望めないよ」という利子率革命ネタとか。
フロンティアが消失したので、電子空間に新たなフロンティアを見つけようとしたけど、それが実体経済の好転(利子率の上昇)には繋がってないよね、とか。
以前
「10万年の地球未来史」読んだときに思ったのと似たような爽快感。
どっちもオチとしては、なかなか暗澹たる未来なんだけども長スパンで見れば
「まあしょせん、人類なんぞそんなもんよな」
というのもあるので、 単純に神の視点に立った気にさせてくれるこういうのは大好き。
※中でも「酸化する海」のくだりはステキに衝撃的。
環境・温度コントローラーとしての「海」が無言でじわじわと毒に犯されていく感じ。人類がのほほんとしてるその上っ面の裏と底で破綻がたしかに進行しているというストーリーはゾクゾクする。
で、せっかく神の視点に立たせてもらったので妄想を膨らましたい。
既に先進国の資本家ちゃんたちは「自分にとってOK牧場な利潤を誇るステキ市場」を見つけられなくなって、今まではエネルギーを安く買い付けて利潤を確保してたけれども、そういう損(エネルギーコスト)を途上国に押し付けることで富を得てきたカラクリも難しくなったし、今では自分で自分の足を食うタコみたいに、それぞれが本拠とする国の労働者層の労働コストを低減することで収益率の改善≒利潤の改善を目指そうとしているわけですが、それにしたって限界があるわけです。
エネルギーコストの低減もだめ
労働コストの低減も限界がある
次なるフロンティアだと思ってた電子空間はバブル塗れでしかも実体経済の利潤回復にはほぼまったく寄与しない。
過去のフロンティアを獲得した覇権国たちは他を圧倒する利子率でおっきくなってきたのに、それが電子空間というフロンティアでは成り立たない。
さあどうする?
となったときに資本家ちゃんたちが次に目指すのはきっと宇宙ではないかな、とおもいついた。
根拠はない。
ただ、電子空間というフロンティアは広さは無限大だけどそれが利子率の回復に寄与しなかったのは、その空間で実際の人間の活動が伴わなかったからだと思うの。
大航海時代のあちこちの別世界との遭遇も、USAの「ネイティブアメリカン駆逐するよ!」な西部大開拓も、フロンティアは生々しい人間の欲望の舞台でもあったわけだ。
電子空間に活路を見出そうとしたものの、その空間では取引はほぼ機械任せで、そういう人間のドロッとした感じの生身の欲望が剥き出しな感じではなかったのが良くなかったのではないか。
利子率の回復(フロンティアの再発見)には、そこでたしかに利益が上がるという実利と同時に、それを求めて争うリアルな人間達の血が必要なのではないか?
そう考えたときに
リアルな人間の活動を伴って、同時になんか利益が上がりそうなロマンを掻きたてる舞台となると・・・宇宙やんけ、と思った次第。
まあそこに達するためのエネルギーコストも労働コストも今までの比ではないので、きっとそんな大々的に広がる世界じゃないだろうな、とは思うけれども・・・尖ったごくごく一部の資本家は宇宙でガチに開拓はじめたりしないかなぁ、と思ったり。
EUは閉じた帝国、エネルギーコスト的に維持しうる経済圏は決まってくる、という話も面白かったけど、そっちのネタはあまり面白いことにはならなさそうなのでスルー。
(コスト的に言うとアメリカが「閉じた帝国」に変節するとしても、太平洋挟んだ日本がそれに属して周辺として生き延びようとしてもなかなか難しいもんがあるよね、というのはなんとなく分かるし、そうなると中共の周辺になるというのはコスト的には妥当な展開なのかな・・・? という妄想も起こってくるけど、これはどっちに転んでも楽しくないのでパス。)
ロケットでいっぱい宇宙飛ばして宇宙植民地が出来て「ここがフロンティアだぞい」ってブイブイ言わせてるようなカッコイイ資本家が現れて、そこでやっぱり労働者は搾取されている、そんな未来があってもいいと思うのです。
フロンティアがなくなったから国民国家の成員の下の方から順繰りに共食いして延命していく未来よりは、よほどね。
今日のタイトルはこちらから。
この作者の例に漏れず未完で終わってこれからも永遠に未完だけど、話の雰囲気は好きだったよ。