afurikamaimaiのブログ

この道は行き止まりだ。引き返せないよ。

桃太郎の目指すところ。

酔いつぶれた(酔い潰した)ところで鬼軍をイヌ、サル、キジで潰す、というのが定番の流れである。

大軍を寡兵で倒す、という行き方はとってもドラマチックで嫌いではないが、どうも話として出来過ぎであるように思う。

桃が多少強いとしよう。

1000年に一度の逸材のクズであるというのも認めておこう。

であっても、鬼軍が村の被害を訴える人々の申し上げるとおりの屈強なマッチョガイであるのなら、一人+3匹で手もなくやられるということはないと思われるのだ。

伝聞で伝えられる鬼軍の精強さ。

一方で桃の退治譚における鬼軍のふがいなさ。

この間にはあまりにも深い断絶がないだろうか?

鬼軍ではなく、「一人(もしくは少数)の鬼」ならまだ分からなくもない。

話として整合性はあると思う。

しかし多くの場合、設定上は鬼ヶ島という要塞に拠る屈強なマッチョ集団である。

強奪・略奪の限りを尽くしながらいまだ無傷、というあたり、鬼ヶ島の防御態勢はそうとうに高いと見做すべきで、そこに拠る鬼の戦闘員全てが酔い潰れてしまうということはおよそ考え難い。そのように弛緩した士気では、収奪された財産の奪還を図った人間たちにも容易に侵攻されていたはずである。だが今までのところ、鬼ヶ島を制圧し、財産を奪還することに成功したものはいない。

桃太郎の成敗譚は、これは嘘松であると見做すがよいのではないか。

御伽噺を嘘松というのも穏やかではない。

しかし、つじつまが合わなさすぎる。

挙兵した人間軍のことごとくが退けられ、泣き言を桃から生まれた子供に愚痴るぐらいしか出来なかった鬼軍相手に、桃太郎はわずかな毛だものを手勢として乗り込み、制圧に成功するというのはいかにも胡散臭い。話盛り過ぎである。いくら姦計を弄し鬼軍の裏をかいたといえ、子供騙しにも程がある。

 

では実際のところ、桃と毛だものたちはどうやって鬼を倒したのであろう? と考えると桃太郎は個人を指すにしても、イヌ・サル・キジ、といったところは各々一匹を指すのではなく、ある程度の大きさの「群れ」だったのではなかろうかと思うのだ。

 

桃の字が単身鬼ヶ島へ乗り込み、鬼軍主隊に対して酒席を設けて接待している裏で、警戒に当たっている支隊との連絡を別途揚陸した狗群が断ち、出城に増援として急行する鬼軍の後置していた予備隊を空中突撃した雉群に吊られて空挺降下を敢行した猿群が遮断するという展開。

酩酊した鬼軍主隊を相手に単騎奮戦する桃の字。

主隊の危機に急行する支隊を上回る速度でその機先を制し、主隊と支隊の連絡を絶ち、主隊を包囲する体制を図る狗。

そうして包囲されかけている主隊を救援するため、支隊に合流しようと押っ取り刀で駆け付けようとした予備隊の背後に、集団で降下して退路を封じる雉と猿。

主隊・支隊・予備隊、それぞれ連絡もままならぬ二重攻囲に陥った鬼軍は、兵力では依然優位だったものの、主力が酒が入っていて戦力が半減しているうえ、主力ほど精強ではない支隊は狗の壁を突破できない。支隊と合流すれば狗防御陣を突破することも出来たかも知れない予備隊は、後方に突如出現した雉・猿群によって隊列の後ろの方から食い破られてほぼ壊乱状態。

桃一人が相手だから、たとえ酩酊したりとはいえ鬼が寄ってたかって鍔競り合っていればいずれ消耗し、鬼軍の勝利に終わったはずだけども、鬼たちは相互に連絡がつかない焦りと、鬼神のごとき活躍を見せる桃太郎に恐れをなしてついに降伏の道を選んだ・・・

 

というような展開ならそれぞれに見せ場があってよろしいのではないかと思う。

イヌ・サル・キジが群であったとすればお婆さんが用意する兵糧であり報奨であるところの黍団子の量も相当なものだろうが、「イヌ・サル・キジそれぞれ一匹」のみの加勢で鬼ヶ島侵攻へと愛息を向かわせるほどの鬼母ではないだろうから、万難を排して兵站の万全を期したのではないかと思う。

しかし、よくよく思い返せば大体のパターンでは「日本一の男になるぜ」って飛び出したのよな、桃太郎。最初から鬼退治が目的ではなかったような。

婆さんも爺さんも、出立の段階で愛息が「鬼ヶ島行って鬼コロコロする」って意欲に燃えていたとしたら、全力で止めてたんじゃないだろうか?