ダメすぎる。
「月給100円サラリーマン」の時代: 戦前日本の〈普通〉の生活 (ちくま文庫)
- 作者: 岩瀬彰
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2017/02/08
- メディア: 文庫
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いっぱい面白かった。
雑学的な意味で。
デフレやっぱダメだわ。
ダメだけどなんだろう、今のダメさよりもさらに上をいくダメさ。
メンツ社交と外聞のために奮発するのに
「最近は安いから最高だぜ!」ってセレブリティが言うとかさ。
ホンネ丸出しすぎだろ。
その割には外聞メッチャ気にしていっぱいゼニ使ってさ。
一方で質素倹約は素晴らしいね、って奨励したり称揚したりして
そのウラで
「フムン、奴はケチよの」
って言われるのが嫌で嫌でたまらなくって借金してでも散財マン。
清貧カッコいい! ってウワッツラの建前はどうしたよ日本人。
色んな階層の暮らし向きについて具体例がたくさんあって興味深かったけど、もっとも気になったのはその辺だね。
緊縮令を正式に出しても、地方の奢侈風味な接待三昧・交際宴会三昧はちっとも改まらなかったという。
それはそれで逞しさなんだろうけど、そこまでしてウワッツラの建前に
「かしこまりー!」
「ハイ喜んでー!」
って拝跪してるウラでホンネ丸出しってあまりにも浅ましすぎないか。
現代日本以上にタテマエの強さが過ぎて、気持ち悪い世界だと思った。
そりゃこんな世界で貧乏暮らしして、ひそひそ奴らは吝嗇だ貧乏だと蔑まれながらも、表向き
「軍人さんは清貧で、ごくろうさんで偉いんやで」
って祭り上げられてたら、ホンネとタテマエの乖離が激しすぎて認知歪むわ。
だからってテロっていいわけじゃないけど、ちょっと事情は了解した。
なんでここまでタテマエを大事にするかね。
それだけタテマエと面子を失うことがヤバい事態、社会的な死を意味するような社会だったんだろうけど、少し想像がつかない。
昔と今の人間の感覚はかなりの程度地続きだけど、この二面性の使い分けの巧さは戦前の人たちの方が長けてると思った次第。
※追記
本書を読んだ後、この記事を読むと
いまいちケッタイな「簡易生活」が何故人気を博したかってのがさらに理解できる気がしました。おススメ!
明治の御代にはたぶん「月給100円」時代よりも鬱陶しい上っ面の体裁を整えなきゃいけない空気が蔓延してたんだろうね・・・って思うと簡易生活を礼賛するのもいっぱい納得。
終章の戦争が始まるまで黙ってた力関係なんかは、良く良く分かる。
自分が「逃げ切った側」って認識があると、現状を替えたい、っていうよりも守りたい、っていう気分の方が一杯になるよね。
お上に逆らって覚えが悪くなってクビを斬られたときの恐怖、というので不満はあるけど表明しないという生き方が習い性になるのはこれはもうしゃーないと思う。
目の前の生活大事(だから社会正義とかに照らし合わせたらたぶん拙いことでも、それ拙いんじゃないの、とか言わない)ってのは今を生きる吾にも実に良く分かる。
こういう小市民的な生き方、分かるぜ。正しいとは微塵も思わないが。
そしてそういうどこか後ろめたさのある毎日を送ってる、って点では心の負荷の度合いは差があれ、昔も今も変わらんのじゃないかな、って想像する。
今の時代と重なるところもありつつ、重ならないところもありつつ。
雑学としても面白いのでおススメです!
もとい、フェミニストとかの人はちょびっと覚悟した方がいいかも。
男の吾が読んでも「うへぇ」ってなる地獄風味の過去の日本が炙り出されてるから。
読んでて気分悪くなるかもしれませんのでご注意。
しかし・・・まだこんな時代から一世紀も経ってないのね。
人間は(現状まだ不十分であっても)良い方向にも変われるのだということも教えてくれる本だと思うよ。